WCH25 Day9 Report
東京2025世界陸上の9日目が、2025年9月21日に行われた。
9月13日に開幕してから連日、国立競技場は熱狂の渦に包まれた。2度目の東京大会もいよいよ最終日。天皇、皇后両陛下と、長女愛子さまが観戦なさるなか、日本勢の熱戦を締めくくったのは、大会最終種目にプログラムされた男子4×100mリレーだった。

前日の予選を38秒07で3着通過した日本は、4レーンに入る。オーダーは予選と同じ1走・小池祐貴、2走・栁田大輝、3走・桐生祥秀、4走・鵜澤飛羽。満員の大観衆で埋まった国立競技場に、一瞬の静寂が訪れる。そして、号砲ともに大歓声が沸き上がった。
小池が強豪国に食らいつき、栁田は世界のエースたちと渡り合う。桐生はふくらはぎにケイレンを起こしながらも踏ん張り、鵜澤は日本のアンカーとしての力を示した。優勝争いは、アンカーに200m4連覇のノア・ライルズを起用したアメリカが37秒29で制し、2連覇を達成。37秒55でカナダが2位、自国新の37秒81でオランダが3位に入った。日本は、38秒35で6位――。

「もっと前で渡せたよね、と思う。メダルが欲しかった」(小池)
「決勝でもう1段階、2段階とギアを上げて走らないといけないのに、予選と同じ走りをしてしまった」(栁田)
「僕がちゃんと走ればいけたと思うけど、僕が一番遅かった」(桐生)
「地力の差と言うか、シンプルな足の速さが必要だと感じた」(鵜澤)

2大会連続の立派な入賞である。だが、4人からは反省の言葉があふれる。オリンピックでは2008年北京、16年リオデジャネイロ両大会で銀メダル、世界陸上は17年北京、19年ドーハ両大会で銅メダルと、世界大会で4つのメダルを獲得してきた日本の4継にとって、目指すものは入賞ではない。その伝統と誇りが脈々と受け継がれているからこそ、入賞では喜ぶことはできない。ましてや、自国開催の世界陸上。それも、通常であれば4×400mリレーが最終種目となるなか、4×100mリレーが設定されたということは、それだけ期待を寄せられているということ。それらを受け止めた選手たちが、入賞に満足するはずはない。チームリーダーの桐生は「僕の責任」と背負い込む。
だが、フィニッシュ後、日の丸を背に肩を落とす4人に対し、スタンドからは惜しみない拍手が送られた。重圧のなか、世界を相手に力走した選手たちの姿を目に焼き付けた人々が、まるで「胸を張れ」と言っているかのように――。

日本は銅メダル2つを含む、入賞11を獲得。これは前回のブダペストと並ぶ過去最多だった。また、日本新記録も4つ生まれるなど、自国開催の大会で大きな成果を残した。
最終日は男子4×100mリレー以外に7種目の決勝と、十種競技後半が行われた。
トラックは女子800mでスタート。いきなり大熱戦となる。最後の直線でパリオリンピック金メダルのキーリー・ホジキンソン、ジョージア・ベルのイギリス勢が抜け出したが、残り50mを切ってリリアン・オディラ(ケニア)が逆転。第1回大会から残る大会記録(1分54秒68)を42年ぶりに更新する、世界歴代7位の1分54秒62で初優勝を飾った。ベルが世界歴代9位の1分54秒90で2位、ホジキンソンは0.01秒差で3位。同一レースで上位3人が1分55秒を切るのは史上初のことだった。

続く男子5000mは、3600mを過ぎて3連覇が懸かるヤコブ・インゲブリクトセン(ノルウェー)がトップに立ってレースを動かす。大集団のまま、残り1周のスパート勝負へ。ビニアム・メハリ(エチオピア)、イザック・キメリ(ベルギー)と目まぐるしくトップが入れ替わる。そして、勝負を決めたのがコール・ホッカー(アメリカ)の目の覚めるようなラストスパート。最後の直線で一気に抜け出し、12分58秒30でアメリカ勢として2007年大阪大会(バーナード・ラガト)以来28年ぶりの栄冠をもぎ取った。キメリが12分58秒78で2位、10000m王者のジミー・グレシエ(フランス)が12分59秒33で3位と2つ目のメダルを手にした。インゲブリグトセンは10位にとどまった。

降りしきる雨の中で行われた男子4×400mリレーはボツワナが2分57秒76で、初の金メダルに輝いた。パリオリンピックではアメリカに0.10秒差で敗れて銀メダル。その雪辱を期し、パリの200m王者レツィレ・テボゴを2走に起用して前半から勝負を仕掛けるプラン。それが的中する。
1走はアメリカがリード。前日の予選では一度は敗退となったが、妨害があったとして抗議が認められ、同じく抗議をしたケニアとの一騎打ちの再レースを午前中に実施。それを勝ち抜いての出場だった。しかし、2走でボツワナのテボゴが並びかける。さらに、3走で後方から浮上してきたのが南アフリカ。400m世界記録保持者であるウエード・ファンニーケルクが猛追を見せ、三つ巴のアンカー決戦となった。最後の直線、横並びの真ん中から抜け出したのがボツワナ。400m覇者のブサンコレン・ケビナツヒピが、アメリカの400mハードル王者ライ・ベンジャミン、南アフリカのザキティ・ネネを抑え、初Vのフィニッシュラインを駆け抜けた。アメリカと南アフリカは2分57秒83で同タイムながら、着差ありでアメリカが2位、南アフリカが3位となった。

女子の4×100mリレー、4×400mリレーはいずれもアメリカが制覇。先に行われた4×400mリレーは、アメリカが32年ぶり大会新の3分16秒61で2大会ぶり女王の座奪還。アンカーのシドニー・マクラフリンレブロニはラップ47秒82の激走を見せ、400mとの2冠に輝いた。ジャマイカが3分19秒25で2位、前回Vのオランダは3分20秒18で3位だった。
4×100mリレーは100m、200m2冠のメリッサ・ジェファーソンを1走に置く攻撃的オーダーで臨み、2走のトワニシャ・テリーで、ライバルのジャマイカをリード。3走のケイラ・ホワイトからバトンを受けたシャカリ・リチャードソンが前半の加速で一気に抜け出し、41秒75で3連覇を飾った。ジャマイカは41秒79で2位。1走のシャリーアン・フレーザープライスは、世界陸上“ラストラン”を力強く駆け抜けた。ドイツが41秒87で銅メダルを獲得した。

男子十種競技はレオ・ノイゲバウアー(ドイツ)が9種目めのやり投でトップに立ち、8804点で逃げ切りV。パリオリンピックではわずか48点差で頂点を逃す銀メダルだったが、初の金メダルに輝いた。最終1500mで追い上げたエーデン・オーウェンスデレルメ(プエルトリコ)が8784点で銀メダル、8種目終了時でトップだったカイル・ガーランド(アメリカ)が8703点で銅メダルだった。
女子走高跳は2m00を1回でクリアしたニコラ・オリスラガース(オーストラリア)が快勝。屋外世界大会初制覇を果たした。マリア・ジョジク(ポーランド)が自身初の2m00の大台を3回目に越えて銀メダル。連覇を狙ったパリオリンピック女王のヤロスラワ・マフチフ(ウクライナ)は2m00を1回失敗した後はこの高さをパスしたが、2m02も2回ともバーが落下。1m97でアンジェリア・トピッチ(セルビア)と並び、ともに銅メダルとなった。

男子円盤投は降雨の影響で開始時間が約2時間遅れて22時10分にスタート。それでも多くの観客が残って声援を送る。2投目に世界記録(75m56)保持者のミコラス・アレクナ(リトアニア)が67m84をマークして主導権を握る。そのまま初の世界一決定かと思われた土壇場6回目に、4投目の67m47で2位だったダニエル・スタール(スウェーデン)が70m47を放って逆転。アレクナの最終投てきがファウルに終わり、ストールが2年連続3度目の優勝を飾った。アレクナは2位、アレックス・ローズ(サモア)が66m96で3位に入った。
なお、この日の午前中に、男子4×100mリレーの再レースも実施された。前日の予選で進路妨害を受けたとして抗議した南アフリカのみの出場。プラス通過ラインの38秒34を切れば決勝進出となったが、38秒64にとどまり、決勝進出を逃している。
この日の入場者数はモーニングセッションは23,575人、イブニングセッションは今大会最多58,723人を数え、総入場者数は619,288人に到達。1991年東京大会の581,462人を上回り、大会のモットーである「every second, “SUGOI”」を現実のものとした大会となった。







