WCH Tokyo 25 Ambassadors
10月5~6日の2日間にわたって、東京・国立競技場で開催された「みんなでつなごうリレーフェスティバル」、通称「リレフェス」。大会初日の10月5日には、来年9月に迫った『東京2025世界陸上』の開幕1年前特別企画として「東京2025世界陸上ドリームリレー」が行われました。
ドリームリレーには、東京世界陸上アスリートアンバサダーを務める北口榛花(女子やり投)、サニブラウンアブデルハキーム(男子短距離)、田中希実(女子中長距離)、男子走幅跳の橋岡優輝(男子走幅跳)の4選手がチームを組んでリレーに挑戦。さらに、スペシャルアンバサダーへの就任が発表された俳優の織田裕二さんが、サプライズで登場してリレーのスターターを務め、会場を大いに盛り上げました。
来年9月13~21日に東京・国立競技場で行われる世界選手権大会開催に向けて準備を進めている東京2025世界陸上財団は、10月5日、「スペシャルアンバサダー」と「アスリートアンバサダー」を発表しました。
スペシャルアンバサダーに就任したのは、俳優の織田裕二さん。1997年アテネ大会から2022年のオレゴン大会までの13大会で、テレビ放映したTBSの番組でメインキャスターを務め、その情熱あふれる語り口と親しみやすさで幅広い層の視聴者の心をつかみ、「世界陸上」の認知度向上に貢献してきた人物です。今回、従来とは異なる立場ながら、2大会ぶりに世界陸上に“復帰”。「長年のキャリアに基づいた“織田裕二ならではの言葉”で世界陸上の魅力や価値を伝える」ことが期待されています。
アスリートアンバサダーには、世界選手権をはじめ、日本を代表するトップアスリートとして数々の国際大会で活躍してきた北口榛花選手、サニブラウンアブデルハキーム選手、田中希実選手、寺田明日香選手(女子100mハードル)、橋岡優輝選手の5名が起用されました。今後は、競技活動のほか、織田さんとともに、公式イベントやメディアへの出演など、さまざまな形で、「東京2025世界陸上」の魅力を、国内外へ発信していくことになっています。
各氏がアンバサダーに就任して最初の記念すべき活動となったのが、東京世界選手権の舞台となる国立競技場で行われた、この「ドリームリレー」でした。ドリームリレーの実施と北口選手、サニブラウン選手、田中選手、橋岡選手の参加自体は、10月に入った段階でアナウンスされていたこともあり、生憎の雨模様となったにもかかわらず、トップアスリートたちの姿を見ようと、リレフェス参加者を含め、多くの人々がスタンドに集まっていましたが、そこへ、サプライズゲストとして織田さんが登場したことで、会場はヒートアップ。「うわあーっ!」という歓声とともに、大きな拍手が起こりました。
開口一番、「こんにちは、戻ってきちゃいました」と挨拶した織田さんは、さまざまなエピソードや自身の思い、ときにはアスリートたちへの投げかけを交えながら、1991年の第3回大会以来、34年ぶりに東京で開催される世界選手権への熱い思いを披露。スタンドに向かって、「僕は絶対に推します。そして見に来ます! 皆さん、応援しましょう」と呼びかけました。
左から、北口榛花選手、サニブラウンアブデルハキーム選手、田中希実選手、橋岡優輝選手
織田さんがスターターを務めたドリームリレーは4チームで実施。橋岡・田中・北口・サニブラウンの順でオーダーを組んだ「アスリートアンバサダーチーム」に加えて、世界選手権でメダル獲得や入賞の実績を持つ川端魁人(2022年オレゴン大会男子4×400mリレー4位)、栁田大輝(2023年ブダペスト大会男子4×100mリレー5位)、白石黄良々(2019年ドーハ大会男子4×100mリレー銅メダル)、岡田久美子(2019年ドーハ大会女子20km競歩6位)の4選手が「歴代日本代表チーム」として出場。小学生チームとして選抜された「あきる野かけっこクラブ」、中学生チームとして選抜された「ゆめおりAC」と対決しました。レースは、前半からリードを奪った中学生選抜チームが大差で勝利。笑顔でバトンをつないだアスリートアンバサダーチームがこれに続き、「歩いて」アンカーを務めた岡田選手をホームストレートでかわした小学生選抜チームが3着で、歴代日本代表チームが4着で、それぞれフィニッシュしました。
ドリームリレーで北口選手からバトンパスを受けるサニブラウン選手 ©月刊陸上競技
左から、栁田大輝選手、川端魁人選手、白石黄良々選手、岡田久美子選手
ドリームレース後には、アスリートアンバサダー4名と織田さんが登壇してのアンバサダー発表記者会見が行われ、ここで改めて、各氏のアンバサダー就任が紹介されるとともに、各氏が1年後に自国で開催される世界選手権への思いを話しました。
1997年から25年にわたって、「世界陸上の顔」を務めてきた織田さんは、まず、前回の東京大会が34年前の開催されたことに触れ、「34年経って、やっと東京でできるということは、私の世代の人たちは、たぶんこれが最後。一生に一度のチャンスなんだなと、昨日それを思ったら眠れなくなった」と笑顔。キャスターとして最後になったオレゴン大会からのブランクを全く感じさせない、“らしさ満開”の軽妙な口調で、豊富な知識や情報を次々と披露しながら、会見をリードしていきました。
大会アンバサダー発表記者会見の一コマ
「陸上の祭典というか、陸上が好きな選手が、陸上を好きなファンの前で、全身全霊で競技をする大会」と世界選手権を称し、「自分にとっても、他の国の選手にとっても、真剣勝負の場所。“しっかりしなきゃな”という気持ちになれる試合の一つ」と話したのは、2019年ドーハ大会から連続出場中で、2022年オレゴン大会で銅メダル、2023年ブダペスト大会では金メダルを獲得している北口選手。その世界選手権が東京で開催される来年について、「日本国内の皆さんに、たくさん競技場に来てほしいし、また、海外の陸上ファンの方みんなが足を運ぶ国立競技場になればいいなと思っている。今はテレビとか、インターネットなど、通信技術がどんどん発展していて、現地に行かなくても競技を見ることはできてしまう時代。でも、やはり現地でなければ感じられないものというのが、実はたくさんあるので、ぜひ、会場に足を運んでいただきたい」と思いを伝えました。
2019年ドーハ大会に5000mで初出場したあと、2022年オレゴン大会には800m、1500m、5000mの3種目に挑み、1500mと5000mで出場した2023年には5000mで8位入賞を果たしている田中選手は、世界陸上についての質問に、「スポーツをしている子が将来の夢を聞かれて最初に挙げるのはオリンピックだと思うが、ちょっと天邪鬼の私の場合は、世界を意識し始めた高校時代に出てみたいなと思ったのは世界陸上。どこか温かみがあり、陸上競技だけのスペシャリストが集まることで、世界陸上のほうが魅力的に映った。2年に1回という短いスパンで訪れるぶん、自分の成長を感じられることができる。陸上キャリアのなかでともに歩んでくれる大会だと思っている」と、田中選手らしい口ぶりでコメント。また、織田さんに「ジャパニーズ“ハッサン”(シファン・ハッサン=オランダ、東京五輪:1500m銅、5000m・10000m金、パリ五輪:5000m・10000m銅、マラソン金)です」と称され、出場種目についての質問が飛ぶと、「参加標準記録は1500mと5000mで突破ができているので、この2種目では狙いたいなという気持ちが今はある」とコメント。「パリ(五輪)の時も、予選からスタジアムが満員で、“海外では、予選から皆、レースを楽しみにしてるんだ”ということがすごく印象的だったので、ぜひ、初日から満員になったらいいなと思う」と話しました。
「僕にとって世界陸上は、陸上だけの最高の舞台。よくオリンピックと比較されるが、オリンピックの陸上も確かに花形ではあるものの、ほかの競技もあってそこに目移りしてしまう部分もある。世界陸上は、本当に陸上だけの祭典。自分自身、人生を捧げてきたものを表現する特別な大会だと思ってる」と話したのは、初出場となった2019年ドーハ大会で8位に入賞して以降、世界選手権は3大会連続で出場しており、東京オリンピックでは6位入賞も果たしている橋岡選手です。パリオリンピックの会場の雰囲気について問われると、「観客の数も多いけれど、同時に一体感がすごいなというのを肌身で感じた」と、午前のセッションから大いに盛り上がっていた光景を振り返るとともに、「日本だと静かに観戦するが、ヨーロッパだと、常に声が上がっている。(東京世界陸上では)日本人の観戦している人たちも、おとなしくしていられないような試合にできればなと思う」と意欲を見せました。
高校生だった2015年北京大会から5大会に連続出場し、200mでの最年少入賞(2017年ロンドン大会)や4×100mリレーでの活躍(2019年ドーハ大会銅、2023年ブダペスト大会5位)、さらには100mでの2大会連続入賞(2022年オレゴン大会、2023年ブダペスト大会)の実績を誇るサニブラウン選手は、「今年(のパリ五輪は)、人生で一番悔しい結果だった。自分も進化しているが、世界もより前に行っているので、それを超えるためには、努力も必要だし、人生を捧げるくらいやらないと勝てないと身に沁みて感じたこと。100mだけじゃなく、200mもリレーもあるので、自分の全身全霊をかけて、これから頑張っていきたい」ときっぱり。会見中には、織田さんからの“愛情溢れるツッコミ”に絶妙なコメントで返して、笑いを起こす場面もありましたが、「自身にとって世界選手権は、どんな存在か?」という質問が出ると、真剣な表情で、「自分にとって、一番“自分が生きているな”と感じることができる舞台」と思いの強さを示しました。そして、「日本の皆さんの前で、そういう状況でパフォーマンスができたら、最高に気持ちがいいだろうなと思う。ぜひ、(会場へ)足を運んでいただきたい」と呼びかけました。
寺田明日香選手
このほか、会見では、スケジュールの都合により参加が叶わなかった寺田選手から寄せられた動画メッセージも披露されました。寺田選手は、世界選手権の思い出として、自身が100mハードルで初出場を果たした2009年ベルリン大会の光景を挙げ、「ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)が100mで世界記録を出したとき、会場が一気にしーんとなって、(新記録が誕生した)そのあとに、ドーンとすごい衝撃で会場が揺れたことを覚えている」と振り返り、「ぜひ、来年の世界陸上も、満員の国立競技場で、2009年のベルリン大会のような衝撃をみんなで目撃しましょう。これから1年かけて、皆さん、ぜひ一緒に盛り上げていきましょう。たくさん世界陸上の魅了を発信していきます」と挨拶しました。
この寺田選手の動画コメントを受けて、織田さんは、「100mが始まる直前の、何万人が一斉に息を止めてシーンと静まり返る雰囲気」や「やり投で一人一人が異なる放物線を描くこと」は、現場にいないとわからないと述べ、「花火のように上がっていくやりの軌道とか、跳躍を見るときに自分の目の中で勝手にスローモーションをつくってしまう感じとかは、競技場でしか味わえない瞬間。来年の東京大会は、2年に1回しかない世界陸上のなかでも、それが日本で見られるスペシャルな大会。ぜひ、その感じを味わってほしい」と締めくくりました。
一緒にドリームリレーを走った小学生チーム、中学生チームと
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
記事提供:日本陸上競技連盟