Mondo Duplantis at the Paris 2024 Olympic Games (© Mattia Ozbot)
スポーツにおいて、アスリートにとっての競技生活は、一連のサイクルで成り立っています。1年を通じて最大の大会に向け、自身のピークを迎えるための12ヶ月のサイクルがあり、またオリンピックで最高のパフォーマンスを発揮するためには、4年間をかけて段階的に準備を進めるサイクルもあります。
しかし、今回はそのオリンピックに向けたサイクルが、例年とは少し異なっていました。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、予定されていたスケジュールや自然なリズムが崩れ始めました。東京2020オリンピックが1年延期されたことで、オレゴン世界陸上選手権も2021年から2022年へと変更を余儀なくされました。その結果、陸上競技界では史上初めて、5年連続で主要な世界大会が開催されることとなったのです。
主要な世界大会は、2021年8月に開催された東京2020オリンピックから始まり、2025年9月の東京2025世界陸上競技選手権大会で幕を閉じます。そして、誰もがパリ2024オリンピックの熱狂を記憶している頃、世界の注目は再び、2021年に満員のスタジアムを実現できなかった東京・国立競技場へと向けられ始めるのです。
それは、素晴らしい選手権になる可能性を秘めています。
東京オリンピックからパリオリンピックまでに開催された4つの世界大会を振り返ると、陸上競技で常にトップの座を維持することが、いかに困難であるかがよくわかります。
3年という短いサイクルの中で、東京オリンピックの個人種目でパリオリンピックでも大会二連覇を達成した選手は、ヴァラリー・オールマン、ライアン・クルーザー、モンド・デュプランティス、ソフィアン・エル・バッカリ、フェイス・キピエゴン、シドニー・マクラフリン・レブロン、マイコラス・テントグルー、ナフィサトウ・ティアム、のわずか8名にとどまりました。
しかし、2021年から2024年にかけて開催された世界大会、すなわち東京オリンピック、オレゴン2022世界陸上、ブダペスト2023世界陸上、そしてパリオリンピック4大会すべてで金メダルを獲得した選手は、女子1500mのフェイス・キピエゴン、男子棒高跳のモンド・デュプランティス、男子砲丸投のライアン・クルーザー、男子3000m障害物のソフィアン・エル・バッカリのたった4名に限られます。
Faith Kipyegon celebrates her 1500m win at the Paris 2024 Olympic Games (© Getty Images)
もちろん、マクラフリン・レブロンやティアム、三段跳のユリマール・ロハスのように、ケガのために四連覇のチャンスを逃した選手もいます。また、異なる4種目すべてで金メダルを獲得したヤコブ・インブリグトセンとジョシュア・チェプテゲイも、賞賛に値します。インブリグトセンは東京オリンピックの男子1500mで優勝し、その後、オレゴン、ブダペスト、そしてパリオリンピックの5000mでその無敵さを証明しました。一方、チェプテゲイは東京オリンピックの男子5000mで金メダルを獲得し、その後、オレゴン、ブダペスト、パリオリンピックの10,000mでも優勝しています。
そして、東京オリンピックで5000mと10,000mで金メダル、1500mで銅メダルを獲得し、パリオリンピックのマラソンで金メダル、5000mと10,000mで銅メダルを獲得したシファン・ハッサンがいます。
継続して世界チャンピオンの座を守るには何が必要かは明らかです。それは、ずば抜けた才能と、高いモチベーションを持った人物であること。そして怪我の有無に関しては、運も大きくかかわってきます。東京大会以降、大事な場面に一度もくじけることのなかった4人は、それを証明しています。毎年、毎年、あらゆる強敵を退けてトップに立ち続けるためには、必要なことです。
この4人のうち、キピエゴン、デュプランティスとクルーザーは、世界記録保持者、世界チャンピオン、オリンピックチャンピオンという超最高レベルの部に属しています。キピエゴンとクルーザーはパリオリンピックで三連覇を達成しており、デュプランティスとエル・バッカリは二連覇を果たしています。
彼らの年齢を考えれば、2028年のロサンゼルスオリンピックで4人ともまだトップの座にいる可能性があります。しかし、先を予見する前に、アスリートのキャリアの中で困難な壁が無数にあることを考えると、2025年に注目するのが一番でしょう。なぜなら、東京2025世界陸上があと1年1カ月と1日で開催されます。
果たして、クルーザー、デュプランティス、エル・バッカリ、そしてキピエゴンはこのままトップの立ち続け、5つの目の世界タイトルを獲得することができるのでしょうか?彼らの可能性をひとりずつ見ていきましょう。
ライアン・クルーザー - チャンピオンの中のチャンピオン
オレゴン州出身の31歳のライアン・クルーザーのような、オリンピック三連覇を達成した、砲丸投の名手はこれまで誰もいませんでした。彼は、自分の種目の記録を塗り替えると同時に、技術的にベストプラクティスとされるものを再発明してきました。
Three-time Olympic shot put champion Ryan Crouser celebrates in Paris (© Getty Images)
クルーザーにとって不利な状況が揃い始めたとしたら、それは2024年のことです。彼は3月に投球肘の尺骨神経を負傷し、4月にはベンチプレス中に大胸筋の肉離れを経験しています。
投てきの練習の許可が下りたのは6月でしたが、彼は全米オリンピック代表選考会で22.84mを投げて優勝し、パリへの代表権を獲得しました。しかし、クルーザーは以前にも似たような経験をしたことがあります。昨年のブダペスト大会では、練習期間中に脚に痛みを伴う血栓ができたにもかかわらず、23.51mを投げて世界タイトルを獲得しています。パリ大会では、金メダル獲得に全力を尽くす必要はなく、4回戦に22.90mを投げ、75cmもの大差をつけて優勝しました。この大差を考えれば、東京の世界陸上で彼が世界大会での五連覇を達成することに誰が疑いをかけるでしょうか?
フェイス・キピエゴン - 1500mの女王
パリ大会の決勝で彼女が先頭を切って勝利するずっと以前から、30歳のケニア人は史上最高の1500mランナーと称されていました。スタッド・ド・フランスでの勝利は、それを確固たるものにしました。実際、前回のオリンピック以降、彼女の専門であるこの種目で彼女に近づいた選手はいません。東京大会では1.39秒差、オレゴンでは1.56秒差、ブダペストでは0.82秒差、パリ大会では1.27秒差で、それは銀メダルを獲得した5000mでの疲れが脚に残っている状態での快挙でした。
実際のところ、キピエゴンと競うには、彼女が本調子である以上、彼女に勝つ術はないというのが現実かもしれません。他の選手がどんなペースで走ろうとも世界記録保持者の彼女を追い抜くことはできないでしょう。最高のギアチェンジも持っています。彼女はそのギアチェンジを利用し、他のランナーの追随を許さなかった。今後12ヶ月間、彼女が好調であり続ければ、東京世界選手権で1500m女王の座を揺るがすような選手が現れるのは非常に難しいでしょう。
ソフィアン・エル・バッカリ - 障害物の王
このモロッコのスターは、オリンピック初出場となったリオ大会では表彰台からわずかに外れて4位に終わりましたが、リオ大会以降、全てのオリンピックの表彰台を支配し続けています。
Soufiane El Bakkali in the steeplechase at the Paris 2024 Olympic Games (© Dan Vernon)
28歳のエル・バッカリのライバルにとって、キピエゴンと似たようなジレンマを抱えることになります。彼の自己記録(PB)は7分56秒68で、世界記録保持者である最大のライバル、ラメチャ・ギルマの方が4秒速いにもかかわらず、ギルマは他の選手とともに、主要な大会の決勝でエル・バッカリを打ち負かすことにまだ成功していません。過去4大会で彼が最も速く走ったのは、昨年のブダペストでの優勝タイム8分03秒53でした。
そして、もし最終ラップまでにエル・バッカリを追い越せなかったとしても、彼の巧みなハードリング・テクニックと驚異的なクロージング・スピードは、一度ゴングが鳴れば、止めることはほぼ不可能であることを何度も証明してきました。パリ大会の最終ラップで転倒したギルマは、来年の東京がエル・バッカリに降参する場となるのかもしれません。彼を打ち負かすためには戦術的なチャンスが必要で、それでも十分ではないかもしれません。
モンド・デュプランティス - 無類の棒高跳び選手
おそらくサム・ケンドリックスが最もよく言った言葉でしょう。中国・廈門で開催されたダイヤモンドリーグでデュプランティスが6.24mの世界記録を樹立し、2024年の屋外シーズンを開幕させた直後、世界選手権で2度の優勝に輝いたケンドリックスは、友人でありライバルでもある彼についてこう語っています。「彼は他とは異なるカードでプレーしている。彼の背中には神の手がついている」。
どのような宗教的説得力を持つにせよ、スウェーデンの24歳がこの世のものとは思えないほどの天賦の才能を持ち、それを長年の努力と鍛錬によって磨き上げ、史上最高の棒高跳び選手として知られるようになったことは誰もが認めるところでしょう。3年前の東京大会では5cmの差で優勝。オレゴンでは27cm差で優勝。ブダペストでは10cm差、パリ大会では銀メダリストのケンドリックスになんと30cmもの大差をつけています。
この4つの金メダルのうち2つは世界新記録(オレゴンとパリ大会)で獲得したものであり、再び東京に注目が戻るにつれ、デュプランティスが調子を崩すようなことがなければ、彼に近づける選手を見つけるのは難しくなっています。クルーザー、キピエゴン、エル・バッカリのように、彼は東京で、歴代の名選手の1人としての地位を確固たるものにする5つの目の世界タイトルという栄冠を手にすることができるでしょう。
Cathal Dennehy for World Athletics